シネマとライブと雑多な日々

映画やライブを見て感じたこと、考えたことを気ままに綴ります。

♯今日の1本 ほろ苦く、かなり切なく、それでも心がポッとあったかくなる『やさしい嘘』

青空が気持ちいいこんな日は、やさしい気持ちになれる映画がおすすめ。

2004年に公開された『やさしい嘘』は、エカおばあちゃんを悲しませないために、その娘マリーナと孫娘アダがついた“嘘”。その嘘をめぐって展開する物語だ。

あらすじと題名から、文科省推薦ちっくな生真面目映画を想像していたのだが、随所にユーモアをちりばめ、ベタッとせずにほろっとさせる…。とりわけ登場人物を見つめる監督の、適度な距離感が心地いい!

舞台はグルジア(旧ソビエト)。エカおばあちゃんとマリーナ、アダ…、三世代の女たちが片寄せあって暮らしている。

冒頭、3人がカフェでくつろぐシーンが出てくるが、エカおばあちゃんが頼んだケーキを何も言わずに横からつまみ食いする娘のマリーナ。それを“なによ”ってな顔で見ているおばあちゃん。孫娘のアダは我関せずの雰囲気…。このシーンに思わずにんまりした。「そうそう、家族ってそうだよねー」と。

マリーナには弟オタールがいて、彼は新しい生活を求めてパリで暮らしている。そのオタールからの手紙をエカおばあちゃんは楽しみにしているのだが、マリーナは母・エカが弟ばかりを愛してるみたいに感じて面白くない。

そのオタールが不慮の事故で死んでしまうのである。そして、エカおばあちゃんを悲しませないためにマリーナとアダの母子は、オタールがまだ生きているように、嘘の手紙を書き始める。その“やさしい嘘”が彼女たちの生活をどう変えていくのか?
ちょっとほろ苦く、かなり切なく、それでも心がポッとあったかくなるラストシーンに思わず涙してしまった。

舞台となっているグルジアについて、失礼ながらほとんど私は知らなかった。なので、この映画はグルジアの人々の生活を垣間見る、という意味でもとても興味深かった。
グルジアは、ソ連が崩壊した後、内戦や民族紛争で混乱し、男たちは働き場所を求めて故国を離れ、女たちが家を守っているのだという。

マリーナの夫もいないのだが、なぜなのか? ストーリーの中で明かされる事実は、現実とつながっていて、とても重い。
しかし、グルジアの街はとても素朴で、日本とはまったく違う文化が根付いている様子がうかがえる。エカおばあちゃんはかつては貴族だったのか、別荘も持っているのに、日々の生活のために娘のマリーナは家に眠る骨董品をフリーマーケットで売ったりしている。

古くからの価値観を崩さず持ち続けているエカおばあちゃんと、自身の持つ価値観に揺らいでいるマリーナ、そしてまったく新しい価値観の中で生きようとしているアダ。そんな3人3様の思いが絡み合う映像から、目が離せなかった。

監督は、フランス人のジュリー・ベルトゥチェリ。3人の女たちを演じる女優も、ポーランド生まれ、グルジア生まれ、ロシア生まれと出身国はさまざまだが、見事に調和していた。

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