シネマとライブと雑多な日々

映画やライブを見て感じたこと、考えたことを気ままに綴ります。

♯今日の1本 リオがらみで思い出した2003年の衝撃作『シティ・オブ・ゴッド』

第15回東京国際映画祭でこのブラジル映画を観たとき、心底驚嘆した。

「こんな映画初めて観た!」というのが正直な感想。

その重苦しい題材からいって、一歩間違えば教訓タラタラの説教くさい映画になってもおかしくなかったのに、そうはならなかった…。

悲惨なスラム街の現実を赤裸々にあぶりだしつつも、まるで最新のCMのような躍動感あふれるスタイリッシュな映像美で、エンターテイメント作品として見事に成立!

十年以上たった今でも、にわとりを追いかけるシーンやすごみのある少年の表情が頭に浮かぶほど、印象に残る映画だった。

この映画は、実際にスラム街で育ったパウロ・リンスのベストセラー・ノンフィクションを原作に作られた。舞台は、ブラジル、リオデジャネイロ近郊のスラム街「シティ・オブ・ゴッド」。ここに暮らす少年たちの日常を60年代、70年代、80年代の3部構成で描いている。

中心人物はふたり。60年代後半に10代そこそこだったリトルトブスカペ、このふたりの少年がどのように育っていくのか、カメラは善悪を判断しない冷徹な視線で追っていく。

「神の街」なんて素晴らしい名前がついているが、そこは麻薬や銃撃戦、暴力等々、何でもありの世界。

60年代の描写で、少年団がモーテルを襲撃し、従業員ほか客もろとも皆殺しにするシーンがある。その一味に加わっていたリトル。しかも、最年少でありながら、最も残虐なことをやってのけるのだ。

このリトルを演じる少年の見事なまでのふてぶてしさ!

日本で言ったら小学校高学年くらいだろうか。こんな子どもが銃を所持し、ギャングのボスになるべく悪行の限りを尽くしていく。この悲惨な世界…、と思うのだが、そこで生きる子どもたちは、「ここで生き延びてやる!」という強烈なエネルギーを発散していて目が離せない。

監督は、当時、この作品が長編3作目であり、CMなどテレビ業界でも活躍していたフェルナンド・メイレレス。そう、今年のリオデジャネイロオリンピック開会式の演出を手がけたのがこの人だ。

彼はこの当時、出演者を選ぶにあたり、2000人におよぶスラム在住の子どもたちをオーディションしたのだという。東京国際映画祭の上映後のトークでは、「ドキュメンタリーのようなリアルな描写を実現するため、出演者によるワークショップやリハーサル、脚本やセリフに関する意見出しは入念に行った」と言っていた。実際、登場人物はすべて素人だったにもかかわらず、みんな演技以上の圧倒的な存在感で観客を魅了したのだ。

余談だけれど,これを観たときに「東京国際映画祭のグランプリはこれで決りだ」と確信した。しかし、そうはならなかった。公式プログラムでは、コンペティション部門にエントリーされていたのに、映画祭の終盤になぜか出品規定を満たさないとかで、アウト・オブ・コンペティションになってしまったのだ。このときの映画祭では、ほかにも2作品が同様の理由で対象外になった。すべて映画祭の最中に。3作品すべてがグランプリ最有力候補だっただけに、とても残念だった。