シネマとライブと雑多な日々

映画やライブを見て感じたこと、考えたことを気ままに綴ります。

老後について考えたいときにおすすめの映画『アバウト・シュミット』&『ミドルエイジ協奏曲』

こんな老後はイヤだ!と痛切に思う『アバウト・シュミット

希望もなければ絶望もない。ジャック・ニコルソン演じる66歳のウォーレン・シュミットは、そんな人生を生きてきた男だ。

妻に「おしっこは座ってして」と理不尽な要求をされても黙って従う情けないオヤジ。

日本で97年に出版された「妻の王国」(文藝春秋)という本に全く同じエピソードがあったが、そう、シュミットの姿はそのまんま日本のお父さんにオーバーラップしてくる。本当は山のように不満を抱えているのに、不満なんかないフリをする。

この映画のキーポイントともなっているアフリカの養子に手紙を書くシーンで、唯一彼は本音を吐露するが、その本音たるやスゴイ。妻への不満タラタラ。笑いながら、おなかの中がひんやりしてくる。

でも、彼は決して妻にその不満をぶつけることはしないのだ。

大きなキャンピングカーをいそいそと買って、老後の夢を語る妻に、心では「勘弁してくれよ」と思いつつ、引きつった笑顔で同意するのである。

日常のいろんな不満にフタをして、生きる意味を問いかけることもなく、自分がどう生きたいかを考えたこともなく、平凡に生きてきたシュミット。そんな彼が、定年後、妻の突然死に見舞われ、彼女の不倫を死後に知り、娘の結婚に翻弄される中で、否応なしに自分に向き合わざるを得なくなる。これは、そんな男の物語だ。

監督・脚本のアレクサンダー・ペインは、『サイドウェイ』や『ファミリー・ツリー』の監督として有名な人。今もそうかはわからないが、この映画が公開された当時41歳の彼は、時代遅れのロン毛ながら、長身でかなりイケメンだった印象がある。この映画の前に撮った『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』は、99年度のアカデミー賞脚色賞にノミネートされている。学園の生徒会選挙を題材にしながら、アメリカの上昇志向を皮肉ったような作品とも言われ、一筋縄ではいかない監督のようだ。

今回の映画では、絶望の果てにかすかな光となるような出来事を用意している。一般的に観れば希望を暗示するラストシーン。ここで感動にむせび泣く人もいるかもしれないが、素直に感動していいのかと疑心暗鬼になってしまう。あのような偽善によって人生が救われるなら楽なもの。人はそう簡単に変れるものではないはずだ。シュミットが見せた感情の揺れは、自分への憐れみだったのではないか。

インタビューで監督は、「ラストシーンの受け取り方は観客の自由だ」と語っている。

この映画を観た13年前は、アメリカだけでなく、日本の病巣を観た気がして暗澹たる気持ちになったが、日本の家族の形も大分変わり、自分も老後にさらに近づいた今観たら、どんな気持ちになるだろうか。

 

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傷つき、絶望しながらも自分に正直に生きる男たちの姿が清々しい『ミドルエイジ協奏曲

2003年の「第11回フランス映画祭」でみたこの映画は、中年男版『スタンド・バイ・ミー』のようだ。

といっても、フランス、中年男とくれば、女が出てこないはずがない。

主人公は、アマチュアサッカーでチームメイトだった4人の男たち。愛妻だけでは満足できずに常に愛人を作るアレックス、20歳以上も年下の恋人とラブラブの53歳のジェフ、妻に不倫の告白をされ落ち込むアントワーヌ、新しい恋の予感にわくわくするマニュ…。

もう25年来のつきあいの彼らは、ひところのトレンディドラマの主人公たちのように、毎週末に集まってはつるみ、誰かにトラブルがふりかかると何をおいてもかけつける。かといって、ベタっとした友情物語が描かれているのではない。

彼らはみんな、それぞれに悩みも抱え、老いを意識する年にさしかかっているが、慎ましやかに自分の人生を謳歌しているように見える。

映画ならではの大胆なストーリー展開があるわけでもないし、ヒーローが描かれているわけでもない。でも、心にじんわり染みてくるのである。

サッカーくじを買うためにマニュの店、総菜屋に集まるシーンはとくに楽しい。店の狭いキッチンのテーブルでこそこそと、パリが勝つだの、マルセイユが負けるだの、子どものように言い合っているシーン…。

そして、4人の男たちが並んで海を眺めるシーンの何とも言えない彼らの表情がいつまでも心に残る。

この映画は、結局、日本では公開されたなかったみたいで、DVDとか動画配信もないようである。残念。