シネマとライブと雑多な日々

映画やライブを見て感じたこと、考えたことを気ままに綴ります。

素直に感動できず、なんかもやっとしたジョナサン・デミ監督の最新映画『幸せをつかむ歌』

2月に観た『ビューティー・インサイド』(この映画、最高だった)のときに流れた予告編を見て、「母と娘の感動ものだぁ」「きっとさわやかに泣ける」と妄想して観に行ったこの映画。※少しネタバレあります。

Twitterなどでは結構、絶賛する声が多いようなのだけど、見終わって感じたのは「なんかすっきりしない」というもやっとした思いだ。

メリル・ストリープ演じる主人公のリッキーは、ロックシンガーになるために、家族と別れる道を選んだ女性である。女性なのに、リッキーという男性名で活動し、レコードデビューもしたようだが、今はスーパーのレジ打ちのアルバイトをしながら、「リッキー&ザ・フラッシュ」というバンドを率い、夜はパブでライブをしている。

そんな彼女のもとに、元夫から、「離婚した娘がふさいでいて不安定なので来てくれないか」という連絡がきて、娘の結婚式にも行かなかったリッキーが、なけなしのお金をかき集めて、娘の元に駆けつける。※スーパーの仕事はどうするの?とちょっとギモンがわき起こる。

離婚した夫の家は、住宅街の中に入るときに守衛の前を通らなければならないような大豪邸。元夫は再婚しているのだけど、その妻は自分の親の介護のために里帰りしていて今は家にいない。※この妻は後で出て来るのだが、なんかストーリー展開は都合が良すぎる感じ。

そして、迎えた娘はもちろん反発して悪態をつくが、翌日には素直に謝って、一緒に美容院に行ったりする。※その支払いは、娘の離婚した夫のクレジットカードでちゃっかり済ませる。

てっきりリッキーには娘ひとりしかいないかと思っていたら、息子も2人いて、ひとりは結婚間近。その婚約者も交えた家族での食事会では、もうひとりのゲイの息子に「お母さんは2回もブッシュに投票した」と責められたりする。※進歩的な女性かと思いきや、実は保守的な女性でもあった。

元夫を演じているのはケビン・クライン。何の映画に出てたかすぐには思い出せないけど、絶対見たことある、いかにもアメリカ人という雰囲気の俳優さん。今、ググってみたら、『デーヴ』(この映画、すごい好きなのに、この映画に彼が出ていることを忘れてたなんて)とか、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』とか、代表作いっぱいでした。

で、このケビン・クライン演じる元夫は、冷蔵庫にマリファナを隠しもっていて、それを元妻のリッキーに発見されるのだが、せめられるどころか、リッキーに誘われて娘と3人でマリファナを楽しむことになる。

このマリファナのエピソートは、母と娘の和解というテーマからすると、別になくてもいいじゃん的な流れで出てきてとても違和感あった。何より、「マリファナ=非合法」の感覚の日本人からすると家族3人で堂々とマリファナ!!!と気持ちがざわざわ。アメリカでも非合法だと思い込んでいたけど、ググってみたら、2014年1月からコロラド州では嗜好品としての大麻販売が解禁となったらしい(知らなかった)。

後から考えると、ケビン・クライン演じる夫は、再婚した妻に満足しながらも、人間としても妻としてもきちんとしてるが故に、窮屈さを感じていて、リッキーの奔放さに心ひかれるシーンとしても必要だったのかなぁと思うのだけど。。。

で、結局、再婚した妻が帰ってきて、リッキーは自分の家に帰ることになるのだけど、その後は、リッキーと娘のエピソードというより、リッキー中心に物語は進んで行く。

思いを寄せられていたバンドメンバーの思いを受け入れて熟年カップルとしての熱々シーンが出てきたり、呼ばれないと思っていた息子の結婚式に呼ばれたもののお金がない、さあ、どうする!!!となって、バンドの彼が多大なる自己犠牲を払ってくれて結婚式にかけつけることができ、最後は結婚式で「リッキー&ザ・フラッシュ」が演奏してみんなで大盛り上がり! ※最後のシーンは感動しながらも、バンドメンバーの旅費は誰が出したのか、気になってしょうがなかった。

ということで、物語の流れ的には大円団のラストシーンに向かって感動へのスムーズな流れが用意されているのだけど、前半同様、後半も所々にざらつくようなひっかかるシーンが出てきてなんだか素直に感動できない。

この映画に出てくる「リッキー&ザ・フラッシュ」というバンドのメンバーは、メリル・ストリープ以外すべて本物のミュージシャンだ。リードギターはリック・スプリングフィールド、キーボードはバーニー・ウォーレル、ベースはリック・ローザス、ドラムはジョー・ヴィテイル。特に、リードギターのリック・スプリングフィールドは、主人公リッキーの恋人役となるわけだが、60歳を超えているとは思えないスリムさとイケメン&セクシーさで、演技力もあったのでとても素敵だった。

脚本を描いたのは、ストリッパーから脚本家になり、『JUNO/ジュノ』でアカデミー脚本賞を受賞したディアブロ・コディ。彼女の義母が、6人の孫がいながらロックミュージシャンとして週末はライブをしているそうで、この女性をモデルにしているそうだ。

監督は、あの『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミ。音楽ドキュメンタリーをてがけたり、この映画の前には、薬物治療中の妹が姉の結婚式に帰ってくるという『レイチェルの結婚』という映画を撮っている。

映画の原題はその名も「RICKI AND THE FLASH」。予告編とタイトルにつられて母娘の感動ものとして観ようとしていたけれど、60歳過ぎの女性ロッカーの物語として感動を求めずに観るべきだったかもしれない。

ジョナサン・デミ監督の本意はどうだったのだろうか。

ストーリーは感動をあおっていたように思うけど、所々に皮肉が込められていたように思うし、物事こんなにうまくいくわけないよね、というご都合主義なところも結構あったし。。。

人によって、いろいろな受け取り方ができる映画なのかもしれない。

[http://:title]

[http://:title]