♯今日の1本 毒気があるのに心うるうる、ファレリー兄弟の『ふたりにクギづけ』
冒頭のシーンにまず驚かされる。
同じベッドに寝ているふたりの男。目覚まし時計で起きたふたりは上半身裸だ!
しかも、ふたりとも筋肉ムキムキで、おもむろにトレーニングを始めるではないか! そして、なぜか室内にある鉄棒。そこに手をつないでぶら下がり、助け合いながら懸垂運動を始めるふたり…。「いったいこれは、どういう映画なんだ!」と思わず心の中で叫ぶ…。
おバカ映画好きの友人に奨められて観たこの映画。あの『メリーに首ったけ』のファレリー兄弟監督の作品ということしか知らず、ただただおバカな映画なんだろうなぁという予備知識しか持っていなかった。
ところが、である。冒頭の不可解な驚きは、やがていくつものくすくす笑い、大爆笑へと変わり、しかも、しかも、クライマックス以降は目頭熱くなるプチ感動へもつながり、最後にはスカッと爽快な、何とも映画的幸福感に満ちたラストシーンを迎えるのである。
気軽な笑いだけを期待していたのだけど、これは、広く広く進めたい、作品だ。
主演はマット・デイモンとグレッグ・キニアのふたり。一流ではあるけれど、どこか二流感も漂う中途半端さがあるふたり。マット・デイモンなんか「どこがいいのだろう?」と主演作が相次ぐ仕事ぶりをいつも不可解に思っていたが、この映画での彼はただ、ただ普通の気のいい男という感じで、好感度大だ。
このふたりが演じるのは、腰の部分でくっついている結合双生児。どう見ても年齢差があるように見えるが、肝臓が弟のマットのほうにあるのでグレッグのほうの老けが早いという設定になっている。
いなかでハンバーガー店を営んでいるふたりだけど、兄のグレッグが俳優になりたいからと、ふたりでハリウッドを目指すことになる。
マットとは離れられない体なのにどうやって俳優になるんじゃ?と普通ならそこから先へは進まないところだが、ファレリー監督はそんなことは障害になるかとばかりに、ぐいぐいと物語を先へ進めて行く。
その過程で起こるさまざまなアクシデントの可笑しいこと! こういうことで笑わせちゃいけないというタブーの世界にあえて挑戦し、ブラックな笑いを振りまきつつ、ほろりと感動させるのだ。
シェールなんて、売れなくなってテレビの三流ドラマに出るしかないという、まんま自分自身を演じるというすさまじさ。
メリル・ストリープもカメオ出演と思えないほど、熱の入った演技を見せる。演技派だけど、ちょっと鼻につくという先入観が吹っ飛ぶほど、面白かった!
とにかく一度観てみるべし。
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3月公開の新作映画から、観たい映画をピックアップしてみた
ここのところ、時間があるので新作映画を観に映画館へとせっせと通っている。主に映画館のサービスデーに…。
新作映画については、「映画.com」のスマホアプリがとても使いやすい。公開日ごとに映画のパンフレット写真が並び、お目当ての映画をクリックすると、映画の内容やレビューだけでなく、公開している映画館、その映画館のスケジュール、映画館の場所やサービスデーなどあらゆる情報にアクセスできる。
「映画.com」で見ると、3月に公開される新作映画は80本近くもある。。。到底全部観ることはできないけれど、備忘録的に、観たい映画をピックアップしてみようと思う。
★U2やマドンナなどのライブを手がける男の音楽ドキュメンタリー『アーサー・フォーゲル〜ショービズ界の帝王』
★今なお現役で活躍する女性のドキュメンタリー『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』
★日本のアニメや映画が大好きな監督が撮ったスペイン映画『マジカル・ガール』
★名優ふたりが演じる同性婚後の悲喜こもごも『人生は小説よりも奇なり』
★南米の麻薬王を描いたベニチオ・デル・トロ主演作『エスコパル 楽園の掟』
★女性として生きたいという夫とそれを受け入れた妻の物語『リリーのすべて』
★4人の娘の花婿が全員外国人だったら!?というフランス映画『最高の花婿』
★セリフなしのブラジル製アニメ『父を探して』
★黒木華ちゃん主演、岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』
★37年ぶりにリバイバル上映されるという『木靴の樹』
★リン・チーリン主演の日中合作映画『スイートハート・チョコレート』
★ブンミおじさんの森のアピチャッポン監督の最新作『光りの墓』
はてさて、何本観られるでしょうか。。。
おしゃれでポップ、だけどベタな演出にムフフと笑えるイタリアの新作映画『これが私の人生設計』
イタリアの小さな田舎町で育った主人公のセレーナが、建築家として世界各地で華々しく活躍するも、「何か違う。。。」と思って故郷に帰国。
ローマで建築家として働こうとしたものの、イタリアの建築業界は昔ながらの男社会のままだった…。
さあ、どうする…というストーリー。
お父さんの形見のバイクを盗まれたり、貯金が底をついてレストランで働くことになったり、恋した相手がゲイだったり、公営住宅のリフォーム建築に応募して採用されるも、男性の設計だと勘違いされ、自分は秘書だと嘘をつくはめになったり…。
なかなか思い通りにいかない人生を前向きに生きる主人公の姿が描かれる。
パオラ・コルテッレージが演じるセレーナが、バリバリキャリアがあるのに、肩肘張っていないふんわりした雰囲気で、ちょっとずっこけたキャラなのがとてもよかった。
セレーナが恋する相手、のちに親友となるフランチェスコは、『トスカーナの休日』や『エイリアンVS.プレデター』などハリウッド映画にも出ているラウル・ボヴァ。
彼の登場シーンはものすごくベタな演出満載で(きっとイタリアでは爆笑だったと思うのだけど)、めちゃめちゃ楽しかった。久々に濃ゆいイタリア人男性を堪能させてもらったという感じだ。
監督は、リッカルド・ミラーニ。ナンニ・モレッティ監督作品の助監督を経て、長編デビューしていて、日本での公開作は少ないが、イタリアでは高い評価を得ている監督だそうです。
くすくす笑いながら、イタリアってこんなにも男社会なのだろうかと思ったり。公営住宅に住むおばあちゃんや若者の描写にリアルなイタリアが垣間見えたり。楽しみながらいろいろ考えをめぐらせられる不思議な映画だった。
セレーナが働いていたレストランのシーンで出てくるメニューが銀座で食べられるそうですよ。
https://www.facebook.com/mikasakaikan/
三笠会館 » 食べてみたかったあの料理が❓!映画「これが私の人生設計」とのタイアップメニュー2016年3月5日(土)~
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♯今日の1本 濃密でベタなアジアンテイストがくせになる『オールド・ボーイ』
2004年のカンヌ国際映画祭で、『華氏911』に次ぐ賞であるグランプリを受賞した作品。日本の漫画を原作に作られた韓国映画である。
理由もわからず15年間監禁され、ついに解放された男が、誰に、何の理由によって監禁されたのかを突き止めようとする復讐の物語。
R−15指定になるだけあって、かなり屈折した愛の物語が繰り広げられる。思わず目をそむける痛いシーンあり、うるうる、じわじわくるシーンもあり。
この手の話、好みがわかれるところだが、私はかなり好みのタイプ。
でも、今回の、ラスト近くで明かされる真実は人間の倫理感を大きく揺るがすタイプのものなので、手放しで賞賛することがちょっとできない。物語としての完結度は高いが、心をわしづかみにされる一歩手前で、妙に冷めてしまうといった感じだ。
原作が漫画なので、リアリティを持たせるのはかなり難しかったのではないかと思う。
そういう意味では、主演のチェ・ミンシク、対するユ・ジテの功績は大きい。かなり荒唐無稽、破天荒な話だけに、2人の男の「想い」が観客の心を突くか否かは微妙で、ただの陳腐な物語になりかねなかったと思う。
冒頭では本当にチェ・ミンシク?というほど、ただの小太りのサラリーマンおじさんだった彼が、15年間の監禁後、ワイルドというには野性的すぎる山あらしのような風貌となってユ・ジテと対決するシーンには、2人の「想い」がズンと胸に伝わる真実の瞬間が確かに垣間見えて、思わずぐっときてしまうのだ。
しかし、これは人生観や常識を覆すような挑戦的な物語として観るべきではなく、単なるエンターテイメントとして楽しむべきだと思う。
荒唐無稽な話の中に感じる一瞬の真実。スピード感のある展開に目を奪われながら、それが妙に心に残る作品だった。
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1%の男たちが繰り広げる痛快じゃない逆転劇! 新作映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
ミーハーなので、第88回アカデミー賞の脚色賞を受賞したという売り文句にまんまとのっかり、公開間もないこの作品を観に行ったのだけど、別に息せき切って観に行かなくてもよかったかな…、というのが正直な感想。
リーマンショックの概要はばくっとは知っていたつもりだったけど、あの当時、金融業界のまっただ中にいながら、世界経済の破綻するほうに大金を賭けた男たちがいて、あの騒動の最中に大もうけした人々がいたことは全く知らなかった。
そっちの側の人から見たら、華麗なる大逆転なのだろうけど、家を失った人から見たらどっちもどっち。1%の男たちが繰り広げる痛快じゃない逆転劇じゃないかと、なんかしゃくぜんとしない感想が残った。映画の中では逆ばりをした男たちが、大もうけしながらも思い悩む姿が描かれるが、それが余計、中途半端な気がして…。
もともとが、映画『マネーボール』の原作者、マイケル・ルイスの著書「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」というノンフィクションをベースにした作品。だからなのか、映画では、登場人物が突然カメラに目を向けて、金融商品などについて解説するシーンが挟み込まれる。ときにそれは、美女が入浴しながら小難しい金融用語を解説する場面だったりする。多分、くすっと笑いながら観ればいいのだろうけれど、そういうドキュメンタリータッチのシーンが余計違和感を増幅していたような気がする。いっそ、テレビ番組かなにかで、完全なるノンフィクションとして観たかった。
でも、登場人物はどの人物もひとくせありの人ばかりでおもしろかった。特に、スティーブ・カレル演じるマークは、そばにいたらとても嫌なタイプだと思うが、いろいろな言動がリアルでキャラがとても立っていた。
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第16回東京フィルメックスで観客賞に輝いた『最愛の子』
昨年開催された「第16回東京フィルメックス」で観た、ピーター・チャン監督の『最愛の子』。観客賞をとっただけあり、公開直後から話題となって、現在、絶賛上映中。
中国で実際に起こった誘拐事件を、誘拐された側、誘拐した側の双方から描いている監督の視点が、とても新鮮だった。
特に、誘拐した側を描いた後半。夫が誘拐した子だと知らずに、精一杯愛して育てていたヴィッキー・チャオ演じる妻が、夫のうそに気づくシーン…。
病院の廊下にひとりたたずみ、涙に暮れる妻の姿がかなり長い間映し出される。
そのうそは、人身売買や一人っ子政策だけでなく、男女差別、貧富の差など、中国が抱える社会問題のさまざまを含んでいて、静かに、でも強烈に胸に迫ってくるシーンだった。言葉で説明するのではなく、引きの画面で静かに見せるのだが、説教する映画は嫌いという監督らしさが現れていたように思う。
「第16回東京フィルメックス」では上映後に監督のQ&Aがあったので、そのときのメモを覚え書きとして。
実際の事件を報道するニュースを見たとき、力を感じる物語だと思った。現代中国のいろいろな問題を含んでいた。未だに子どもの売買をしている。
毎年2000人の子が養子になっている。労働力として男の子がほしい。1万人民元を出して子どもを買う。
社会問題として取り上げるより、事件が発生した背景の両方を見るべきと思った。ひとりっ子政策は、中国はあまり言われたくないところ。この物語を通じて、両方から見れるといいと思って、第一部、第二部という描き方をした。商業映画で大事な点。誘拐された側の人を丹念に描く。でも、誘拐した側も悪い人ではない。
観客に説教するような映画は好きじゃない。社会活動をしている人に、「あの映画はよかった」と言われた。チャリティーを助けてくれる。SNSなどのソーシャルメディアでいくら社会問題を伝えても伝わらない。映画を見ることで問題が存在することを認識してくれる。
誘拐した側のお母さんを演じたヴィッキーチャオさんについて。彼女はすっぴんで登場。説得してすっぴんで出てもらった。ファンデーションすらもぬっていない。
走り書きメモなので、きちんとした内容を知りたいかたは、以下のフィルメックス公式から出ている動画をどうぞ!
♯今日の1本 日曜の夜はコレ! B級ノリが楽しい『ドリームキャッチャー』
『スタンド・バイ・ミー』と『エイリアン』と『アウトブレイク』をごっちゃ混ぜに」したような映画である。
原作は、スティーブン・キング。これを『白いドレスの女』『ボディガード』のローレンス・カスダン監督が映画化した。
当時の宣伝のうたい文句は
「人類が想像すらできなかった超常現象と直面する圧倒的な恐怖、そして、意外な展開の末に待ち受けるヒューマンな感動を体験できる、まったく新しいサスペンス・ホラー超大作」。
ホラーが苦手だったので迷ったが、少年時代からの仲良し4人組が遭遇する恐怖…という内容に惹かれて初日に観に行った映画だ。
この映画、かなりドキドキするし、怖かった。それでいて、昔懐かしいB級映画っぽいチープなワクワク感が随所にある。
しかし、この宣伝文句は、はっきり言ってかなり大げさに感じた。「超大作」や「感動」などに過大な期待を抱いて観ると、結構ずっこけるので要注意だ。
この映画を観るときは何も考えないのがいちばん。
例えば、日曜の夜、家族や恋人と、お菓子片手に肩を寄せ合って、ハラハラドキドキしながら楽しむべし。仮にCMが入ってもOKの、適度なユルさが心地よい。
それでいて、油断していると「オイオイ! そこまで話しが飛躍してしまっていいのかーっ」とツッコミを入れたくなるほど、ストーリーは大胆に展開していく。
この緩急が何とも言えない魅力だ。
サイコな陸軍大佐役を楽しんで演じてる風のモーガン・フリーマン。極秘の特殊任務につく彼が「この任務をジョン・ウェインから受け継いだ」というシーンにも要注目。
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